2006年9月15日発売の 『週刊ポスト』 にこんな記事が掲載されていました。
以下、原文のまま引用致しました。
専門機関の抜き打ち調査で発覚
大ブーム 岩盤浴は 「細菌・カビがウヨウヨ」だ!
「大腸菌、レジオネラ菌、水虫菌が危ない。あってはならない数値だ」 (専門家)
「奇跡の湯」 と謳われた秋田県・玉川温泉の 「北投石」 を発祥とするという岩盤浴。
健康や美容に良いと評判を呼んで大ブームを起しているが、 “俺も、私も” と駆け出す前にねこの衝撃のデータをご覧いただきたい。
体に良いはずの岩盤の上は、実は細菌とカビの巣窟だったのである。
その理由は 「岩盤浴特有の事情」 にあった――。
元々は女性専用の店舗が多かったが、最近になって男性も利用出来るものや、カップル専用の店舗も登場した岩盤浴。
その数は健康ランドなどに併設されている複合型も含め、5月中旬時点で全国に約840施設にまで膨れ上がっている。
(『月刊レジャー産業資料』編集部調べ)
下着も何も着けない状態から作務衣を着て、室温40度、湿度80%程度に設定された岩板室内に寝っころがり、岩盤から生じる遠赤外線
などの温熱を受ける。
静かな音楽を聴きながら寝ていると、無理なく全身に汗がかけると評判だ。
しかし本誌は、そんな岩盤浴の 「癒し」 のイメージを覆すような衝撃的なデータを入手した。
東京都内や神奈川県内複数の岩盤浴施設で、抜き打ち検査を実施した検査機関の、部外秘の報告書である。
あるサウナ・浴場関係者が、岩盤浴の衛生管理状態に疑問を持ち実施したもので、その中には多くの雑誌に特集された有名な施設も含まれ
ている。
たがその結果は、まさに目を疑うものだった。
細菌やカビなどが、すべての施設から検出されたのである。
ある都内の温泉施設Aの岩盤浴室の石の上を無作為に採取したところ、1平方cmあたり24CFU(コロニー)の真菌類が検出された。
また、別の都内の岩盤浴専門施設Bからは、やはり1平方cmあたり12コロニーの真菌類が出た。
さらに、神奈川県内の施設Cでも、15コロニー/1平方cmの一般生菌が検出されている。
一般家庭のフローリングの床で検出される真菌類は、通常0.1コロニー/1平方cm以下だというから、その数がいかに多いかがおわかりいた
だけるだろう。
この結果について、細菌消毒に詳しい温泉施設コンサルタントで、スパライズ株式会社社長の中澤克之氏はこう警告する。
「公衆浴場法の衛生管理で考えると、カビは細菌の増殖の温床になるので、1個たりとも存在してはいけないんです。これだけの数が検出され
るなど、尋常ではありません」
ちなみに、この検査は開店約3時間後に行われたものである。
比較的、店内が綺麗であると考えられる状態での結果であることを考えると、客が殺到する夕方以降の状態では、さらに深刻である可能性は
高い。
それでは、この 「一杯生菌」 「真菌類」 の正体とは一体何か。
ある民間検査機関の専門家が語る。
「真菌類は水虫の原因となる白癬菌などのカビのことを差しますが、一般生菌というのは非常に多くの最近を含む。危険なものとしては、レジオ
ネラ菌」などが考えられますが、こうした温泉施設で一般生菌が検出された場合、その中に大腸菌が含まれることは間違いない。とにかく、あっ
てはならない数値ですね」
つまり、検査を行った岩盤浴の石の上には、大腸菌などの細菌やカビがウヨウヨ蠢いているというのだ。
こうした菌が繁殖してしまう理由は、岩盤浴の環境が影響しているという。
前出の専門家の話。
「温度が40度、湿度が80%と細菌にとっては非常に心地良い環境で、栄養分となるアミノ酸が含まれる人間の汗が多量に落ちている。それ
に窓がなく換気設備も十分でなてとくれば、岩盤浴はまさに細菌の培養空間ともいうべき状況なんです。」
また、室内環境中に浮遊するカビについて研究する、 「エフシージー総合研究所環境科学研究室」 の川上裕司室長もこう口を揃える。
「一般的に、白癬菌は34度が最適温度といわれます。カビは菌糸を伸ばして増え始めるのに24時間かかり、それ以内に洗い流せばケアでき
ますが、細菌は環境状況によっては増殖を続けられる。細菌のすべてが悪玉菌とはいえませんが、床に寝ることで衣類や体に付着し、さらに病
源菌が鼻や口、小さな傷口から体内に入ることで毒素が作られこともある。危険性を孕んでいることは間違いありません。」
それでは、サウナや銭湯の衛生状態と比較した場合はどうなのだろうか。
「銭湯の場合は、浴槽内を塩素で消毒することもできる。また、サウナは温度が90度ほどと岩盤浴と比べて非常に高い上に乾燥しており、ほと
んどの細菌が死滅してしまうから心配は少ないんです。」 (前出・中澤氏)
つまり、ここまで繁殖するのは、岩盤浴の環境が原因というわけだ。
こうした細菌の危険性について、温泉療法医で、東京・内幸町診療所の植田理彦所長が指摘する。
「細菌類で感染する病気には、トリコモナスとか水虫などがあります。中でもトリコモナスは感染しやすく、カビが発生した場所に接触すねと、白
癬疹(インキンタムシ)を発症しますね。」
水虫やタムシはもともと風呂場や風呂マットでも簡単に感染することが知られており、繁殖している場所に寝ころぶ危険は推して知るべしだろ
う。
一般生菌はさらに深刻だという。
「一般生菌の中には、大腸菌以外にも色々なものが含まれていると考えられます。汗をかいたらそのままなので、有機物が残っているために、
腐敗してすごい匂いを出すはずです。また、もしその中に危険なレジオネラ菌がいたら大変です。菌を含んだ水蒸気を吸っただけでも肺炎を起
します。密閉された部屋の中だと、みんなの汗が蒸発し天井にくっついて、ポタポタ落っこちてくることだってあり得るわけで、衛生上良くない」
(植田所長)
前出の川上室長も、レジオネラ菌については、 「床に顔をつけた状態で寝転がる岩盤浴では、呼吸器に入る可能性が高くなる」 と指摘する。
レジオネラ菌では、過去に日本でも死亡事故が起きており、大規模な集団感染では、被害者総数1300人、死者7人という大惨事の例も
ある。
しかし、不衛生な状態であるにもかわらず、何故殺菌しないのだろうか。
ある岩盤浴施設関係者はこう内情を明かす。
「何といっても表面に凹凸がある岩盤の上ですから、掃除方法も、ブラシによる水洗いでは効果がない。アルコールや塩素による消毒が必要な
のですが、温度が50度近くあると塩素やアルコールが気化してしまい、有毒ガスが発生する恐れもある。十分な換気をしながら消毒するとなる
と、営業を中断して大々的にやらなければならない。それは難しいのです。」
そこで本誌は、今回検査が行われたうちの2か所の施設を訪れ、実際に岩盤浴を体験してみた。
寝ていると、係員が1時間に1回程度入ってきたが、異変がないかをチェックする程度で清掃する様子はない。
何より、中に入るために待たされるほどの大盛況ぶりだったため、前の利用者が立ち上がると、そこに次の利用者が滑り込むという状態が繰り返
されていた。
もう一つの施設も同様で、営業時間中、清掃及び消毒をしている様子はなかった。
よく見ると、通路の色に比べて寝ている場所の色がくすんでいたり、黒いタイルの上に汗が乾いた跡のような無数の斑点が見受けられる。
指摘のあった臭いに関しては、どの施設も強いミントやハッカなどの香りが充満しているためか、特に気にならなかった。
一体、国は岩盤浴の衛生基準をどのように定めているのだろうか。
岩盤浴は、公衆浴場法の中の 「その他の公衆浴場」 に位置づけられている。
これはサウナと同じ扱いだ。
しかし先述した通り、岩盤浴はサウナよりも温度が低く、細菌の繁殖という観点ではまったく環境が異なる。
サウナと同じ条件の衛生基準のままで、果たして問題はないのだろうか。
厚生労働省に質した。
「確かに、岩盤浴はサウナより温度が低く、培養しているようなものかもしれません。国としては、衛生基準として、毎日清掃し、常に衛生的に維持管理するとともに、ひと月に1度以上、消毒するよう指導しています。ただ、違反した際の罰則については、各都道府県の条例に従うこととなっています。」
(健康局生活衛生課)
厚労省の話では、業界団体である日本サウナ・スパ協会が、衛生管理基準を設けており、それに基づいて各店舗に指導を行っているという。
確かに、同協会の自主管理基準の中には、 『サウナ及び営業施設における衛生確保に関する自主管理基準への 「いわゆる岩盤浴」 の追加について』 というくだりだが、04年9月付で追加されていた。
それによると、具体的な構造や措置などとして、@洗い場、シャワー室または浴槽を設けること、A岩盤等浴室内は、毎日清掃し、常に衛生的に維持管理するとともにひと月に1回以上消毒すること、B公衆衛生上の理由から、利用者が使用する浴衣類は営業者が清潔なものを提供し、使用されること――とある。
その他の衛生管理については、自主管理基準に準拠すること、と記されているだけ。
極めて基準が緩いといえるのではないだろうか。
本誌が衛生面についての疑問をぶつけると、意外な答えが返ってきた。
「確かに、細菌等の話はいろいろ聞くんですよね。私も、個人的に厚生労働省に対して質問をしたことがあるくらいです。加盟店には、基準に基づいて消毒や清掃を徹底するよう指導しています。しかし我々は民間の団体ですから未加盟の施設に対しては強制力がありませんのでね…」
(協会事務局)
ちなみに、同協会に岩盤浴施設として登録しているのは1社のみ。
健康ランドやサウナ、複合施設に岩盤浴を併設しているような業者を含めると、全国で170社ほどだという。
しかし実態として、全国すべての岩盤浴施設を網羅しているわけではないようだ。
こうなると、岩盤浴施設の全貌を把握できているのは、条例に監視、指導を行なう保健所だけなのか。
東京都福祉保健局の担当者(保健安全室環境衛生課)に聞いた。
「清掃に関しては、条例によって、毎日一回以上清掃し、洗浄することと規定されています。浴槽のような消毒や水質検査は、義務付けていません。どれくらいで感染するのかの基準はないのですが、毎日清潔にするよう指導しています。」
――立ち入り検査の予定は。
「岩盤浴に限っての検査は予定していません。岩盤浴のような低温サウナで、新たな衛生問題が起きれば動かざるを得ないが、現段階では事例を聞いていません」
――バスタオルを裏表関係なく使うことで、細菌が付着する可能性など、問題はないのか。
「逆に、湿ったタオルを介して、細菌が繁殖する可能性は高い。タオルをなるべく敷かないでもらいたいし、できればタオルを持ち込まないでもらいたいと指導しているほどです。どちらが衛生的かわかりませんが、今後、問題が起これば、対応せざるを得ない」
増え続ける岩盤浴施設に対し、消費者の安全を守るべき行政の衛生管理の対応は、まったく追いついていないのが実態のようだ。
温泉博士といわれる、札幌国際大学観光学部の松田忠徳もこう呆れる。
「この夏、北海道の温泉地にある岩盤浴施設が売りに出されていたので見に行ったんですが、入った瞬間、カビ臭くて、顔を背けました。しばらく使わないだけでそうなるということは、清掃が行き届いていなかったのではないでしょうか。保健所はかなり厳しい規制を設けないと、循環風呂のようなレジオネラ菌騒動が起こりかねませんよ。」
もちろんすべての施設が危ないというわけではないが、衛生管理のうえで岩盤浴はかなり遅れている。
それをよく頭に入れて良い施設を選ぶことが必要だ。
